健やかであるための体力とは?
体力があるに越したことはないかもしれませんが、体力さえあれば必ずしも健康長寿になれるとは限りません。
体力と健康とは、どのような関係性があるのでしょうか?
|体力には2種類ある|
実は体力には2種類のものがあるとされています。
多くの人がまず体力というと、スポーツや力仕事の時に必要な筋肉の動きを主とする力で、
いわば「運動能力」ともいうべき体力を思い浮かべるでしょう。
この積極的に発動する体力を「行動体力」といいます。
そしてもう一つは、病気や環境の変化に対応する時に発揮される内臓を含めた体全体の動きです。
これらの力は、いわば「抗病力」ともいうべき体力で、「防衛体力」といいます。
「行動体力」はスポーツなどの競技をする際に必要な一時的な能力ですが、「防衛体力」は、生まれてから死ぬまで、夜も昼も休むことなく連続して働き続けなければなりません。眠っている間でさえ「防衛体力」は働き続け、1分間の休息も許されません。
「行動体力」は運動や競技が終わると休むことができます。「防衛体力」は私たちが眠っている間も無意識のうちに働き続けてくれるのです。
また、「行動体力」のように力を出す時間が短くてすむ場合には、その短い時間内にどれくらい力を集中できるかによって、優劣が分かれます。
「防衛体力」のように力を出さなければならない時間が延々として長年月にわたる場合には、力を持ち続けることが、何よりも大切なこととなります。「行動体力」が衰えた時は、運動をあまり必要としない生活へシフトすれば事足りますが、「防衛体力」が衰えた人は、生命を維持することが難しくなってきます。
若い頃、どんなに体力自慢だったとしても、中高年になってから息切れして「防衛体力」が衰えてしまうようなら、体力的に充実した人生とはいえません。「防衛体力」は、その強さだけでなく、力を持続する時間の長さが、優劣を決める基準となります。
また、「行動体力」と「防衛体力」とでは、それぞれの力を使って発揮すべき相手が違ってきます。
「行動体力」はスポーツや競技でその能力を発揮して競うことが目的となりますが、「防衛体力」は、細菌やウィルスや気温や日射しなど目に見えにくい自然環境を相手にする体力です。
力を発揮する体の部分も違うということでもあります。
「行動体力」を発揮するために働くのは、主として、筋肉、関節、靭帯などの運動器官、そして、心臓や肺などです。
「防衛体力」を発揮するために働くのは、主として、人間の体を病気から守るための「免疫」と呼ばれる仕組みです。
免疫の仕組みは運動能力の優劣に関係なく働きます。
ですから、「行動体力」を強化して、より長い距離を走れるようになっても、より重いものを持ち上げられるようになっても、必ずしもそのことがそのまま免疫の働きを増強することにはなりませんが、運動によって筋肉量が増えると、基礎代謝量が上がり、それによって体温が上昇することで免疫細胞が活気づき、結果的に「防衛体力」を強化することができると考えられます。
|限りある細胞分裂|
免疫細胞には寿命があり、人間の体の必要に応じて、無限に作り出されるものではありません。
限られた分裂回数(約50回といわれる)が消費されて終わりに近づくと、免疫細胞は、もう活発には作り出されなくなります。
ということは、病気と闘う力、「防衛体力」が弱くなる、あるいは無くなるということです。
どのような種類の運動であっても、運動することによって、免疫細胞の分裂回数の限界を拡げることはできません。
人間にできることは、免疫細胞が消耗する機会を減らして、分裂回数を節約することだけです。
そのためには、免疫の仕組みが働かざるを得ないような機会を、できるだけ作り出さないことです。
生まれてから死ぬまでの長い年月を基準として健康を考えるなら、運動の分野でも、免疫細胞の無駄遣いを避けることが非常に大きな意味を持ちます。
免疫細胞の消費を防ぐためには、免疫の働きを必要としない体の状態を保って、免疫細胞を休ませてあげることです。免疫細胞の動員を必要としない体の状態を作り、それを保ち続けることこそ、健康の維持になり、病気の予防となります。
|運動は強度より頻度|
運動も、免疫細胞の立場から見直してみると、これまでの考え方を変えざるを得ません。
激しい運動や長時間にわたる運動が、免疫の仕組みを休ませるのに役立つとは、とても考えられず、むしろ、免疫細胞を不必要に引っ張り出して働かせてしまう可能性の方が、はるかに高いのではないかと考えられるからです。
運動能力が優れているからといって、必ずしも長寿とは限らず、むしろ短命のケースが多いことが、スポーツの往年のスター選手たちの晩年をみても垣間見れます。
かといって、体は使わないと退化してしまいます。
毎日欠かさず運動するとなると、運動の強さや運動時間の長さなど一日の運動量は自然に決まってきます。
運動が強すぎても、運動時間が長すぎても、疲労が翌日まで持ち越されてしまって、毎日運動を続けることが難しくなるからです。翌日に疲れを持ち越さない程度の運動を毎日欠かさず行うことが、健康にとっては一番良い方法です。
たとえば、年に一回高い山に登るよりも、月に一回低い山に登る方が健康のためになり、毎日坂道を散歩する方が、さらに健康のためになるでしょう。
|運動は、体力と心身の健康増進に欠かせないもの|
運動が終わった後、しばらくの間、体を楽にし、頭の中を空っぽにして、ひたすらぼーっと休むことは決して無意味ではなく、それどころか、全身が緊張から解放されている感覚を養うために、たいへん役に立ちます。そして、この開放感が健康につながるのです。
また運動は心理的な緊張を和らげ、日常的な欲求不満、あるいは葛藤の解消に役立つと考えられています。
適度に運動を行った後は、気分が爽快になり、意欲も湧いてくるので、心理的な健康効果も高いです。
また、運動はまだ日のある明るいうちに行っておいて、暗くなったら体を休ませることが、自然の摂理に適っています。
手軽でおすすめなのは、自宅のまわりをジョギングしたり、ウォーキングすることです。
職場であれば、時々イスから立ち上がり、ストレッチや屈伸運動をやってみましょう。
以上のように適度な運動が心身の健康や体力(防衛体力)を培かい、その継続が健康長寿を可能にしていくことでしょう。
次のページ
→「福を招く『盛り塩効果』とは⁉」へ
前のページ
←「予防が肝心!「熱中症」対策」へ